結論
まず、順番を間違えないでください。
この記事でいちばんお伝えしたいのは、次の一点です。
相続放棄を少しでも検討しているなら、不動産を売却したり処分したりする前に、必ず弁護士・司法書士などの専門家に確認してください。
相続財産を処分するなど一定の行為をすると、相続を承認したものとして扱われ、その後の相続放棄に影響する可能性があります。
ただし、何をすれば相続を承認したことになるのかは、行為の内容や個別事情によって判断が異なります。
ですから、
「とりあえず名義を変えよう」
「先に家を売ってしまおう」
と自分だけで判断しないことが重要です。
そのうえで、まず確認したいことは大きく2つあります。
- 故人は団信に加入していたか。加入していた場合、保険金の支払対象になるか
- 住宅ローンはいくら残っていて、その家はいくらで売れそうか
この2つが分かるだけで、状況は大きく変わります。
はじめに
親が亡くなり、実家に住宅ローンが残っていた。
葬儀、役所への届出、遺品の整理。
ただでさえ大変な時期に、突然「住宅ローン」という大きな問題が出てきます。
そして相続では、預貯金や不動産などのプラスの財産だけではなく、住宅ローンなどのマイナスの財産も原則として相続の対象になります。
そこで「相続放棄をしたほうがいいのではないか」と考える方もいらっしゃいます。
しかし、ここで慌ててはいけません。
放棄する前に確認すべきことがあります。
そして反対に、相続放棄を検討している間は、先に進めないほうがいい手続きもあります。
大事なのは、順番です。
【最重要】相続放棄を考えているなら、先に不動産を動かさない
相続放棄を少しでも考えている場合、相続財産を処分する前に専門家へ確認してください。
たとえば、
- 不動産を売却する
- 売買契約を結ぶ
- 相続財産を自分のものとして処分する
- 銀行から求められた手続きをそのまま進める
こうした行為の中には、内容や状況によって、相続を承認したものとして扱われる可能性があるものがあります。
ただし、
「相続登記をしたら必ず相続放棄できない」
「家財を一つ処分したら必ず相続放棄できない」
というように、一律に判断できる問題でもありません。
何が相続放棄に影響するのかは、個別の事情によります。
だからこそ、不動産会社だけの判断で進めてはいけないのです。
銀行から手続きを求められた場合も確認する
たとえば、故人が団信に加入していた場合、銀行から手続きを求められることがあります。
しかし、相続放棄を考えているのであれば、
「銀行から言われたから、そのまま手続きして大丈夫だろう」
と考えず、何のための手続きなのかを確認してください。
特に、相続登記や抵当権抹消などが絡んでくる場合には、弁護士や司法書士に自分の状況を説明したうえで進めることをおすすめします。
確認1 故人は団信に加入していたか
住宅ローンの相続では、**団体信用生命保険(団信)**が非常に重要です。
団信とは
団信は、住宅ローンの契約者が死亡した場合など、契約上の保険事故に該当すると、保険金によって住宅ローン残高が返済される仕組みです。
住宅ローンによっては、団信への加入が融資条件となっているものがあります。
一方で、商品によって加入条件や保障内容は異なります。
ですから、
「住宅ローンなら当然、団信に入っている」
と思い込まず、必ず確認してください。
団信が適用される場合
保険金によって住宅ローン残高が返済されれば、住宅ローンの問題は大きく変わります。
ローンがなくなった不動産について、
- 誰が相続するのか
- そのまま所有するのか
- 売却するのか
- 他の相続財産や債務はどうなっているのか
を改めて検討することになります。
ただし、団信で住宅ローンがなくなることと、相続全体の判断は別問題です。
住宅ローン以外に債務がある可能性もあります。
そのため、団信が適用されたからといって、すぐに相続手続きを進めるのではなく、相続財産全体を確認することが重要です。
団信が適用されない場合
故人が団信に加入していなかった場合や、契約上の理由によって保険金の支払対象にならない場合、住宅ローンがそのまま残ることがあります。
その場合、相続人が相続すれば、住宅ローンを含む債務についても整理する必要があります。
返済ができず、そのまま放置すれば、最終的には抵当権に基づく競売などの手続きへ進む可能性があります。
だからこそ、団信の確認を最初にする必要があります。
団信の確認方法
まず金融機関に確認してください。
確認したいのは、
- 故人は団信に加入していたか
- 今回の死亡等が保険金支払いの対象になるか
- 現在の住宅ローン残高はいくらか
です。
借入先の金融機関自体が分からない場合には、法務局で不動産の登記事項証明書を取得すると、抵当権者などから手掛かりを確認できます。
確認2 住宅ローン残高と家の価値を確認する
次に重要なのが数字です。
確認したいのは、
- 住宅ローンはいくら残っているか
- 家はいくらくらいで売れそうか
- その他に債務はないか
- その他に預貯金などの財産はないか
です。
たとえば、単純化して考えてみます。
住宅ローンが2,000万円残っていても、家が2,500万円程度で売れる見込みがあるなら、売却によって住宅ローンを完済できる可能性があります。
反対に、
住宅ローンが2,000万円残っていて、家の売却見込額が1,000万円程度なら、売却しても住宅ローンが残る可能性があります。
この違いは非常に大きいです。
ただし、不動産だけを見て相続放棄するかどうかを決めることはできません。
預貯金、他の不動産、借金、保証債務など、相続財産全体を確認する必要があります。
私たち不動産会社が出せるのは、
「この不動産が市場でどの程度の価格になると考えられるか」
という材料です。
その数字を持って、弁護士・司法書士・税理士など必要な専門家と相続全体を検討します。
相続放棄で特に注意したいこと
相続放棄について最終的な法律判断をするのは、不動産会社ではありません。
そのうえで、住宅ローンの残った不動産について相談を受ける立場から、確認していただきたいポイントがあります。
注意1 「家だけ放棄」はできない
相続放棄は、
住宅ローンだけ放棄して、預貯金は相続する
という制度ではありません。
相続放棄をすれば、原則としてプラスの財産もマイナスの財産も含め、その相続について相続人ではなかったものとして扱われます。
ですから、不動産の価値だけで判断しないでください。
注意2 自分が放棄すると、他の相続人に影響することがある
相続放棄によって、他の相続人や次順位の親族が相続人となる場合があります。
そのため、
「自分が放棄すれば、それですべて終わり」
とは限りません。
ご家族・ご親族への影響も含めて、専門家に相続関係を確認してもらうことが大切です。
注意3 相続人としての責任と、もともとの契約上の責任は別
これは非常に重要です。
たとえば、ご自身が住宅ローンの
- 連帯債務者
- 連帯保証人
などになっている場合です。
相続放棄によって故人から引き継ぐ債務を免れたとしても、もともと自分自身が契約によって負っている債務や保証責任まで当然になくなるわけではありません。
住宅ローンの契約書を確認してください。
分からなければ、金融機関や法律の専門家に確認してください。
注意4 相続放棄には期限がある
相続放棄には法律上の期間があります。
一般に、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申述することが基本です。
ただし、いつから期間を数えるのか、期間伸長を検討できるのかなど、個別事情によって法律判断が必要になる場合があります。
「まだ3か月あるから大丈夫」と自己判断せず、早めに専門家へ相談してください。
状況によって方向は大きく変わります
| 状況 | 検討する方向 |
|---|---|
| 団信が適用される | ローン返済後の相続財産全体を確認し、相続するか専門家と検討 |
| 団信が適用されず、売却で完済できそう | 相続全体を確認したうえで、相続・売却を検討 |
| 団信が適用されず、売っても債務が残りそう | 相続放棄を含め、法律の専門家と検討 |
| 自分自身が連帯債務者・連帯保証人 | 相続放棄とは別に、自分自身の契約上の責任を確認 |
重要なのは、
「家にローンがある=相続放棄」
と短絡的に決めないことです。
反対に、
「家に価値がある=相続したほうが得」
とも限りません。
相続財産全体を見て判断します。
相続して売ることになった場合
専門家と確認した結果、相続して不動産を売却することになったとします。
売却代金で住宅ローンを完済できるのであれば、通常の不動産売却として進められる可能性があります。
問題は、売却しても住宅ローンを完済できない場合です。
住宅ローンの抵当権が付いている場合、原則として抵当権を抹消できなければ、通常の形では買主へ引き渡せません。
そこで検討される方法の一つが任意売却です。
債権者等と協議し、売却代金だけでは完済できない状況でも、抵当権抹消について承諾を得て売却する方法です。
ただし、
任意売却ができるかどうかを決めるのは、私たち不動産会社ではありません。
債権者等との協議・承諾が必要です。
私たちに決められないこと
正直に書いておきます。
次のことは、株式会社エルライフだけでは判断できません。
- 相続放棄をすべきかどうか
- 相続放棄ができるかどうか
- 特定の行為が法定単純承認にあたるかどうか
- 団信の保険金支払いの対象になるか
- 任意売却に応じてもらえるかどうか
- 任意売却時の売出価格
- 相続税など税務上の取り扱い
それぞれ、判断する人・専門分野が違います。
私たちができる大切な仕事の一つは、
「この不動産はいくらで売れる可能性があるのか」
という数字を出すことです。
そして、その数字を材料にして、必要な専門家と一緒に全体を整理します。
では、誰に相談すればいいのか
今回の問題は、不動産・法律・登記・税務にまたがっています。
弁護士は、相続放棄や債務などの法律問題。
司法書士は、相続登記や抵当権抹消などの登記。
税理士は、相続税をはじめとする税務。
不動産会社は、不動産の価格や売却方法。
それぞれ専門があります。
問題は、順番です。
不動産だけ先に動かしてしまい、その後で、
「相続放棄を考えていました」
となっては困ります。
だからこそ、相続では一つの専門分野だけを見るのではなく、最初から全体を見ることが重要だと考えています。
株式会社エルライフの考え方
私たちは不動産会社ですが、
「不動産会社だから家を売る」
というところから始めません。
相続では、特にこの考え方を大切にしています。
家を売っていただけば、不動産会社には仲介手数料が入ります。
しかし、売却を急いだことで、ご相談者にとって大切な選択肢に影響してしまうのであれば、先に売却を進めるべきではありません。
まず、
この方にとって、最終的に何が一番いいのか。
そこから考えます。
士業会は「提携先」ではありません
株式会社エルライフは、一般社団法人 士業会と連携しています。
ここには、弁護士、司法書士、税理士、行政書士、土地家屋調査士など、それぞれ違う専門分野を持つ人がいます。
社員ではありません。
単に案件を紹介するための「提携先」という考え方でもありません。
一人の相談者の問題を、必要に応じて違う角度から一緒に考える、チーム・仲間という関係です。
相続は、まさにこの形が必要になる問題です。
法律は弁護士。
登記は司法書士。
税務は税理士。
不動産価格と売却は私たち。
しかも、これには順番があります。
ご家族を亡くされた直後に、いくつもの窓口を回って、同じ事情を何度も説明するのは大きな負担です。
だから、必要な専門家が必要な場面で加わり、一つの問題をいろいろな角度から考える形を取っています。
自己破産について
「自己破産しないほうがいい」とは申し上げません。
必要になるケースはあります。
そして、その判断をするのは弁護士です。
同じように、
相続放棄ありき。
売却ありき。
自己破産ありき。
任意売却ありき。
で最初から結論を決めることもしません。
まず全体を確認してから、その方に合う方法を考える。
これが私たちの考え方です。
よくある相談場面
※以下は特定のお客様の実例ではなく、一般的に起こり得る相談場面です。
ケース1 銀行に言われるまま手続きを進めるところだった
銀行から住宅ローンに関する手続きを求められ、そのまま進めようとしていた。
しかし、相続放棄も検討していたため、先に専門家へ確認することになったというケースです。
ケース2 団信の存在を知らなかった
住宅ローンがそのまま相続されると思っていたものの、確認すると団信に加入していた。
まず保険金支払いの対象になるか確認することになったというケースです。
ケース3 自分自身も保証人だった
相続放棄をすれば住宅ローンの問題も終わると思っていた。
契約関係を確認すると、ご本人自身も連帯保証人等になっており、相続とは別に自分自身の契約上の責任を確認する必要があったというケースです。
専門家コメント 宅地建物取引士 松本
相続のご相談で、相続放棄を考えている方に私が最初にお伝えするのは、
「売るのは、まだ待ってください」
ということです。
不動産会社としては、少し変な話に聞こえるかもしれません。
家を売っていただけば、私たちには仲介手数料が入ります。
それでも、先に止めます。
なぜなら、相続は順番を間違えると、後から元に戻すことが難しい問題があるからです。
銀行から手続きを求められることもあります。
銀行の担当者が悪いわけではありません。その方は、その方の立場で必要な手続きを進めています。
でも、銀行の手続きと、ご家族にとって最善の相続方法が、必ず同じとは限りません。
だから、相続放棄を考えているのであれば、先に弁護士や司法書士に確認してください。
そして私たち不動産会社が担うのは、
「この家には、いくらくらいの価値があるのか」
という重要な材料を出すことです。
住宅ローンが2,000万円残っていても、家が3,000万円で売れるのか、1,000万円なのかでは、話はまったく違います。
ただし、その数字だけで相続を決めるわけでもありません。
預貯金も、他の債務も、保証の問題もあるかもしれません。
だから、士業会の仲間と一緒に考えます。
法律、登記、税金、不動産。
一人の方の問題を、それぞれ別々の問題として見るのではなく、一つの問題として考える。
大事なのは、どこの会社に相談するかだけではありません。
誰を、自分と家族の味方につけるのか。
相続では、特にそれが大切だと思っています。
よくあるご質問
Q1. 相続放棄を考えています。先に家を売ってもいいですか?
売却を進める前に、必ず弁護士・司法書士などの専門家へ確認してください。
相続財産の処分が、相続放棄に影響する可能性があります。
Q2. 銀行から団信の手続きに来るよう言われています。行っても大丈夫ですか?
手続きの内容によります。
相続放棄を検討していることを専門家に伝え、何の手続きなのか確認してから進めることをおすすめします。
Q3. 団信に入っていたか分かりません。
まず金融機関に確認してください。
借入先自体が分からない場合には、法務局で登記事項証明書を取得し、抵当権者などから確認する方法があります。
Q4. 相続放棄すれば、住宅ローンの支払いはすべてなくなりますか?
ご自身がもともと連帯債務者や連帯保証人などになっている場合は別問題です。
相続とは別に、ご自身の契約上の責任を確認する必要があります。
Q5. 自分が相続放棄したら、それで終わりですか?
他の相続人や次順位の親族に影響する場合があります。
相続関係全体を専門家に確認してください。
Q6. 査定だけお願いできますか?
はい。
査定は、売却契約をすることとは別です。
ただし、相続放棄を検討している場合は、査定後に売却契約や財産の処分へ進む前に、専門家へ確認してください。
まとめ
- 相続では、プラスの財産だけでなく住宅ローンなどの債務も確認する
- 相続放棄を検討しているなら、先に不動産を売却・処分しない
- 何が相続放棄に影響するかは個別判断。弁護士・司法書士などに確認する
- 最初に団信が適用されるかを確認する
- 同時に住宅ローン残高と家の売却見込額を確認する
- 団信が適用されても、相続全体の確認は必要
- 相続放棄をしても、もともと自分が連帯債務者・連帯保証人なら別途責任を確認する
- 相続放棄には期間があるため、早めに専門家へ相談する
- 売却ありき、相続放棄ありきで決めない
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